「親を許せば楽になるよ」
「親には感謝すべき」
そう言われて、かえって苦しくなったことはありませんか?
これらは、当事者にとっては心の二次被害にもなり得る残酷な言葉だとわたしは思います。
罪悪感が深まり、自分を責めてますます孤立してしまうからです。
「許せない自分は未熟なのかも」
「怒りが消えない私はおかしいのかな」
そんなふうに感じてしまう方も少なくありません。
でも、結論からいうと「無理して許さなくてもいい」のです。
本当に必要なのは、「許すこと」よりも前に、自分の心を癒すステップ。
段階を踏まずに無理やり許そうとすると、かえって逆効果になります。
今回は「許すこと」よりも先に取り組むべき、大切な5つのステップについてお話しします。
この記事を書いた人:心理カウンセラー 雨音(あまね)きよ
アダルトチルドレン、毒親育ち、愛着障害など「生きづらさ」を抱える方のための心理カウンセリングを行っています。
自らも生きづらさに苦しんだ経験から「誰もが自分の人生を生きられる世の中」を目指して活動中。
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毒親を「許せない」のは当然の感情

毒親に育てられた人にとって、「親を許す」というのはとても重いテーマです。
頭では「もう大人なんだし、水に流さなきゃ」と思おうとしても、
心の奥には、怒り、悲しみ、恐れ……さまざまな感情が渦巻いている。
それは、あなたが弱いからでも、心が狭いからでもありません。
むしろ「許せない」という気持ちは、
それだけ深く傷ついた経験があったという「心の奥からの叫び」なのです。
- 本当は甘えたかった
- 本当は守ってほしかった
- 本当は気持ちを分かってほしかった
- 本当は受け入れてほしかった
なのに実際は叶わず、傷つけられてしまった。
幼少期の悔しさや寂しさを、急になかったことにはできません。
ネガティブな感情は、抑え込もうとすればするほど増大します。
そして何度も形を変えてあなたを苦しめ続けます。
だからまずは「許せない」と感じている自分を否定しないこと。
その気持ちこそが、回復への出発点になります。
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許すより先に必要な、5つの回復ステップ

毒親との関係に悩む人が、「許す」より先に取り組むべきこと。
それは、心の土台を整える5つのステップです。
気づく→受け入れる→決める→理解する→境界線を引く
の流れになります。それぞれ、詳しく見ていきましょう。
① 気づく:自分が支配されていたことに気づく
まず必要なのは、「自分が親から支配されていた」という事実に気づくことです。
- 親の言うことを聞かないと怒鳴られる
- 親の機嫌を損ねないように、いつも顔色をうかがっていた
そんな子ども時代を過ごしてきた人は、自分の感情よりも親の感情を優先して生きてきました。
「私が悪かったから怒られたんだ」
「お母さんがつらかったのに、私はわがままだったのかも」
まだ子どもだったあなたは、そうやって自分を責め続けることでしか、当時は生き延びられなかったのです。
なぜなら1人では生きていけない幼い子どもにとって、親に嫌われることは自分の生命に関わる重大なことだから。
でも今はもう、大人になったあなたにはその支配の構造を見つめ直す力があります。
「あれは私のせいじゃなかった」
そう気づくことが、心を自由にしていく第一歩です。
自分が親から縛られてきた価値観を見つける方法については、あなたを縛る生きづらい価値観の手放し方8ステップで詳しく解説しています。
② 受け入れる:感じてもいいと、自分に許す
次に大切なのは、「感じてはいけない」と思ってきた感情に向き合うことです。
というのも、何度も言いますが、ネガティブな感情は押さえつけるほど強くなってしまうからです。
たとえば、ふだん感情をあまり表に出さない人ほど
我慢の限界を超えたときに一気に爆発してしまう──そんな経験はありませんか?
怒り、悲しみ、恐れ、悔しさ、罪悪感……
それらはすべて、あなたの本物の感情です。
「親を恨んではいけない」
「感謝しなきゃダメ」
そんな言葉に縛られて、自分の気持ちを押し殺してきた方も多いのではないでしょうか。
でも、感情に良い・悪いはありません。
感じること自体に、正しさや間違いはないのです。
「私は許せないと思っている」
「本当は、もっと愛されたかった」
そう思う自分を否定せず、そのまま受け止めてあげてください。
すぐには難しいかもしれません。
でも、少しずつ感情を感じる練習を重ねていくと、
やがて自分を責める気持ちや罪悪感がやわらぎ、心が少しずつ軽くなっていきます
③ 決める:自分の人生を生きると決める
傷ついた過去を乗り越えるには、「自分の人生を生きる」と決めることが必要です。
これは、親と縁を切るとか、絶縁するということではありません。
たとえば、
・親の期待通りに生きるのをやめる
・自分の本音を大事にする
・「NO」と言っていいと自分に許す
こうした小さな選択の積み重ねが、あなたを少しずつ「自分の人生」に取り戻していきます。
親がどう思うかではなく、自分がどうしたいかを大切にする。
これは、怖いけれど、とても勇気ある決断です。
でもその選択が、親の影響から少しずつ自由になっていく第一歩になります。
④ 理解する:親の生きてきた背景を知る(タイミングが来たら)
ここまでのステップを踏むと、
ようやく「親にも背景があったのかもしれない」と思える瞬間がくるかもしれません。
もちろん、人によってタイミングも違うし、難しいこともあります。
ここで注意したいのは、理解するとは、親を正当化したり、許すということではありません。
自分が影響を受けていた背景を理解し自分の本当の気持ちを受け入れることで
「親もまた、自分と同じような(または自分とは違う)不安や孤独のなかで生きていたのかもしれない」と思い至ることがあるということです。
「親を理解できるようになったら楽になった」
「でも、今はまだ無理」
そのどちらでも、構いません。
どちらもあなたの正直な気持ちです。
いずれにせよ「理解できない自分はダメだ」とは思わないようにしましょう。
その自己否定が、また罪悪感を呼び起こし、回復の歩みを止めてしまうこともあるからです。
⑤境界線を引く:親との適切な心の距離を設定する
ここまで来たら、自分が親と今後どのような距離感で関わりたいかを自分で設定します。
人にはそれぞれ、自分の「心の敷地」があり、その間には境界線があります。

たとえ親子でも、相手の敷地に土足で踏み込んではいけません。
毒親育ちのあなたは、親の過干渉や否定によって、自分の心に踏み込まれるのが当たり前になっていたかもしれません。
あるいは、親の機嫌を損ねないようにと、あなた自身が親の敷地に踏み込んでいたのかもしれません。

上の図のように境界線があいまいになると、自分の気持ちや考えを大切にすることが難しくなってしまいます。
「親と自分は別の人間」だと意識し、心に境界線を引くことが、あなた自身を守り、本当の意味での回復につながっていきます。
ゴールは『許す』ではなく、あなたの人生を生きること

毒親からの回復で心が癒されていく過程で、結果として「許し」が訪れることはあります。
けれど、それはあくまで「結果」であって「目的」ではありません。
「許さなきゃ」と無理にゴールに設定してしまうと、
かえって自分の気持ちを押し込めてしまい、回復が遠のいてしまうこともあるからです。
ゴールはあくまでも、あなたが自分らしい人生を取り戻すこと。
人は誰しも、幸せになるために生まれてきたということを忘れないでいてほしいのです。
もし自分1人でこのプロセスを踏むのが難しいと感じたら、専門家のサポートを頼ってみてください。
『心の雨の相談室』では、心の深堀りカウンセリングであなたの本当の願いを読み解き、イメージワークもあわせて回復のステップを強化します。
初めての方限定で、お試しカウンセリングもご用意していますので、ぜひご活用くださいね。

