「話していても、気持ちが届かない」
「何度伝えても、同じところですれ違ってしまう」
「私はここにいるのに、ひとりぼっちな気がする」
アスペルガー傾向や共感性の低いパートナーとの関係の中で、こうした感覚が続くと、心も体もすり減っていきます。
パートナーとの間で気持ちが通じない孤独や緊張が積み重なり、心身に不調があらわれている状態は、一般的に「カサンドラ症候群」と呼ばれています。
ただ、同じように気持ちが通じにくい関係にいても、深い閉塞感から抜け出せなくなる人もいれば、少しずつ自分なりの距離感や関わり方を見つけていく人もいます。
この違いは、我慢強さや性格の前向きさではありません。
また、誤解のないようにお伝えすると「カサンドラになる人に問題がある」ということでもありません。
分かれ道になるのは、相手を変えるために力を使い続けるのか、それとも自分を守るために力を使えるようになるのか、という違いです。
この記事では、
・カサンドラ症候群の苦しさを深める負のループ
・閉塞感から抜け出していく人に共通する視点
・自分を責めずに、今後の関係を選ぶために大切なこと
についてお話しします。
カサンドラ症候群にならない人がいるのはなぜ?
アスペルガー傾向や共感性の低いパートナーと一緒にいても、全員がカサンドラ症候群になるわけではありません。
同じような環境の中で、
A:強い閉塞感に追い込まれ、抜け出せなくなる人
B:自分なりの距離感や関わり方を見つけていく人
このように分かれていきます。
ではこの違いは、「我慢強さ」や「性格の前向きさ」なのでしょうか。
実は、そうではありません。
カサンドラ症候群に苦しむ人の多くは、むしろ長い間、関係をよくするために人一倍努力してきた人です。
「伝え方を変えれば分かってもらえるかもしれない」
「私がもっと相手を理解すれば、関係がよくなるかもしれない」
「家族なのだから、いつか分かり合えるはず」
そう信じて、何度も話し合い、我慢し、相手に合わせてきたのではないでしょうか。
分かれ道になるのは、努力の量ではありません。
苦しいやり取りを繰り返していることに気づき、「同じ方法を続けても、状況は変わらないかもしれない」と立ち止まれるかどうかです。
ここでいう「立ち止まる」とは、関係をすぐに諦めることではありません。
相手を変えることに注いできた力を、自分を守るためにも使い始めることです。
カサンドラになる人をさらに追い込む「負のループ」

カサンドラ症候群に苦しむ方の多くは、気づかないうちに「負のループ」の中にいます。
分かってもらえない絶望感が積み重なる
↓
自分の感覚を守るために、「正しさ」を強く握りしめる
↓
正しさを説明し、相手を変えようと必死になる
↓
相手には責められているように伝わり、さらに心を閉ざされる
↓
状況が変わらず、孤独や失望が深まる
↓
もっと分かってもらおうとして、最初に戻る
どれだけ頑張っても苦しさが減らないのは、努力が足りないからではありません。
むしろ、心が限界まで頑張ってきた証です。
何度伝えても気持ちを受け止めてもらえない状況では、
「私が間違っているのだろうか」
「私の求めていることがおかしいのだろうか」
と、自分の感覚まで分からなくなっていきます。
そのような中で、
「普通はこうするはず」
「私の言っていることのほうが正しい」
と正解を一つに決めたくなるのは、決してあなたが弱いからではありません。
自分の感じていることを否定され続けてきた心が、自分自身を保つために必要としていた支えなのです。
かつての私自身も、この閉塞感の中で動けなくなっていました。
どうすれば分かってもらえるのか。何と言えば相手は変わってくれるのか。
そのことばかりを考え、伝え方を変え、説明を重ね、それでも通じないたびに傷ついていました。
その頃の私には、次にお話しする視点が足りていなかったのだと思います。
カサンドラにならない人の4つの共通点

ここからご紹介するのは、「カサンドラ症候群になった人にはできていない」という話ではありません。
苦しさの渦中にいるときには、誰でも視野が狭くなり、自分を守るだけで精いっぱいになります。
それらを踏まえたうえで、閉塞感から抜けていく人が共通して持っている4つの視点についてお話しします。
① 消耗のループに気づく
これまで、
「頑張れば、いつか分かり合える」
「私の伝え方を変えれば、関係はよくなる」
そう信じて、何度も話し合いを重ねてきた方も多いはずです。
しかし、閉塞感から抜け出していく人は、あるとき、自分が同じやり取りを繰り返し、そのたびに消耗していることに気づきます。
たとえば、
・何時間話しても、いつも同じところですれ違う
・相手が納得するまで、説明をやめられない
・相手の反応によって、一日中気持ちが揺さぶられる
・気持ちを伝えることより、相手を変えることが目的になっている
・そもそも、何話し合いができない
このような状態が続いているなら、努力の方向を見直す時期なのかもしれません。
大切なのは、
「どうすれば、もっと分かってもらえるだろう」
と考え続けることから、いったん離れてみることです。
そして、
「この関わり方を続けて、私はどうなっているだろう」
と、自分の状態にも目を向けます。
同じやり方を手放すことは、逃げでも諦めでもありません。
相手を変えるために使ってきた力を、自分を守るために使い始めることです。
② 何よりも自分を責めない
気持ちが何度も通じない状態が続くと、
「私の伝え方が悪いのかもしれない」
「私が求めすぎているのではないか」
「もっと相手を理解できる人なら、うまくやれたのかもしれない」
と、自分に原因を探してしまうことがあります。
さらに周囲からも、
「相手にも悪気はないんだから」
「あなたが気にしすぎなのでは?」
と言われ、自分のつらさを否定してきた方もいるかもしれません。
けれど、相手に悪気があるかどうかと、あなたが傷ついたことは別の問題です。
たとえ相手に発達特性があったとしても、
寂しかったこと。
分かってもらえず、つらかったこと。
ひとりで背負い続け、疲れてしまったこと。
その苦しさまで、なかったことにする必要はありません。
閉塞感から抜け出すためには、まず、
「私は本当につらかった」
「傷つくようなことがあった」
「ここまで、よく頑張ってきた」
と、自分の気持ちを自分がそのまま認めることが大切です。
自分の苦しさを認めることは、相手を悪者にすることではありません。
自分の心を、これ以上ひとりにしないということです。
③ 正しさで相手を変えようとしない
「私はこう感じる」
「私はこうしてほしい」
という自分の感覚を大切にすることは、とても健全です。
ただ、気持ちが通じない状態が続くと、
「私の言っていることが正しいと分かってもらえれば、相手も変わるはず」
と思い、さらに相手を説得したくなることがあります。
しかし、どれほど丁寧に伝えても、相手が同じように感じたり、望んだとおりに反応したりするとは限りません。
分かってもらおうとするほど言葉が強くなり、相手は責められていると感じて心を閉ざす。
その結果、さらに孤独が深まることもあります。
ここで必要なのは、自分の正しさを捨てることではありません。
相手に認めてもらえなくても、
「私はこう感じている」
「私はこれをつらいと思っている」
という自分の感覚まで、間違いになるわけではないと知ることです。
相手には相手の感じ方があり、自分には自分の感じ方がある。
相手と自分の間に境界線を引き、それぞれの問題を切り分けて考えられるようになると、正しさを証明するために使っていた力を、自分を落ち着かせたり、必要な助けを求めたりするために使えるようになります。
④ 自分を守るルールを決める
相手との違いを認めることは、すべてを我慢して受け入れることではありません。
閉塞感から抜け出していく人は、
「相手をどう変えるか」
ではなく、
「違いがある中で、私はどう関わるか」
を考えるようになります。
そのうえで、自分を守るための具体的なルールを決めます。
たとえば、
・話し合いは30分でいったん終える
・感情が高ぶっているときには結論を出さない
・口頭で伝わりにくいことは文章で伝える
・引き受けられない家事や役割は断る
・暴言や威圧があったときは、その場を離れる
・すべてをパートナーに理解してもらおうとせず、ほかの相談先を持つ
といったルールです。
大切なのは、相手を思いどおりに動かすためではなく、自分がこれ以上傷つかないためのルールにすることです。
「どこまでなら一緒にいられるのか」
「どこから先は、自分が苦しくなるのか」
「これだけは受け入れられない、という境界線はどこか」
を考えていきます。
自分を守るルールを決めることは、冷たさでもわがままでもありません。
相手の反応に振り回される関係から、自分で関わり方を選べる関係へと変えていくための大切な一歩です。
カサンドラに「なる人」と「ならない人」の分かれ道

カサンドラ症候群になる人とならない人に、強さや人間性の違いがあるわけではありません。
むしろ、苦しんできた人ほど、関係を壊さないために長い間ひとりで頑張ってきた人です。
分かれ道になるのは、
「相手に分かってもらうことだけが、苦しさから抜け出す方法ではない」
と気づけるかどうかです。
相手に理解してもらうことを、あきらめるのではありません。
相手の反応に、自分の心の安定をすべて預けないということが最も重要です。
相手が変わらなくても、自分の気持ちを認め、助けを求め、距離を取ることはできます。
「どうすれば相手を変えられるか」から、「私はどうすれば安心して暮らせるか」へ視点が移ったとき、閉じていた出口が少しずつ見え始めます。
向き合う=自分を責めることではない

自分と向き合うとは、欠点を探したり、相手を許す理由を見つけたりすることではありません。
これまで何に傷つき、何を我慢し、本当はどうしたかったのかを整理することです。
そのうえで、
・関係を続ける
・関わり方を変える
・距離を取る
・今は結論を出さず、自分の回復を優先する
など、自分に合った道を選べる状態を目指します。
カサンドラの渦中にいると、相手に分かってもらえないことが、自分の価値まで否定されたように感じられることがあります。
けれど、相手に理解されなくても、あなたが苦しかったことは事実です。
もう十分に頑張ってきた自分を認め、これからは自分を守る方法を考えてもいいのです。
ひとりでは気持ちを整理できないときは、カウンセリングで一緒に紐解いていくこともできます。
否定されず、責められない場所で言葉にしていくことで、
「なぜ、これほど分かってもらうことにこだわってしまうのか」
「本当は、どのような関係や暮らしを望んでいるのか」
が、少しずつ見えてきます。
必要なのは、相手を変えるために、さらに頑張ることではありません。
これまで相手に向けてきた力を、自分を理解し、守り、自分の人生を選ぶために使い直すことです。



